Metaとブロードコムが協業拡大へ、AIチップ量産のためか
MetaとBroadcomは2026年4月14日、AIチップ「MTIA(Meta Training and Inference Accelerator)」の複数世代にわたる共同開発を核とした、多年度・多世代にまたがる戦略的パートナーシップの拡大を正式に発表した。この協業は2029年まで続く複数年契約であり、両社はこの3年間でMetaが急増するAIコンピューティング需要を満たすための次世代AIアクセラレーターチップを共同開発していく。
MTIAとはなにか。自社チップ開発への布石
MetaがMTIAプログラムを初めて公表したのは2023年のことだ。NVIDIAなど外部ベンダーへの依存を減らし、コスト最適化と安定したシリコン調達を実現することを目的として開発が始まった。その動機の一つは、AIワークロードの急速な増大に対応しつつ、GPUと比べてTCO(総所有コスト)を大幅に削減することにあった。実際、第2世代にあたるMTIA 2i(現在の呼称はMTIA 200)は、GPUと比較して平均44%のTCO削減を達成している。
MTIAチップはRISC-Vアーキテクチャをベースとし、TSMCで製造される。ブロードコムとの協業のもとで開発されており、Meta独自のワークロードに最適化した専用チップとして機能する。FacebookやInstagramのコンテンツランキング、レコメンデーション処理から、生成AIの推論まで、Metaが日常的に処理する膨大な計算タスクを効率的にこなすことが主な役割だ。
2026年3月には、MTIAの新たなロードマップとして4世代のチップを2年以内に開発・展開する計画が公表されていた。MTIA 300はランキング・レコメンデーション(R&R)のトレーニング用として既に本番稼働中であり、MTIA 400、450、500はいずれも主に生成AI推論ワークロードを対象としている。
同月の発表では、MetaのエンジニアリングVPであるYee Jiun Songが「通常、半年ごとに新しいチップをリリースするシリコンチームは存在しない。非常に速いペースだ」と述べており、これほど短いサイクルで複数世代を展開するのは異例の取り組みだ。
今回の発表内容、何が変わるのか
今回の協業拡大は、既存の関係をさらに深化させるものだ。Broadcomはチップ設計、アドバンストパッケージング、ネットワーキングにまたがる形でMetaと協力し、数十億人へのリアルタイムAI体験を提供するために必要な大規模なコンピューティング基盤の構築を支援する。このパートナーシップはBroadcomのXPUプラットフォームを基盤としており、複数のシリコン世代を通じてMetaのAIインフラを最適化するために設計されたカスタムAIアクセラレーター向けの技術だ。
具体的なコミットメントとして、初期展開として1ギガワットを超えるMTIAチップの導入が確約されており、最終的には複数ギガワット規模への拡大が見込まれる。電力規模での合意というのは、チップの展開数量を直接示す指標ではないが、データセンター規模での大量導入を前提とした数字だ。
技術的なハイライトとして特に注目されるのが製造プロセスだ。Broadcomは、新しいMTIAチップがAI業界で初となる2ナノメートルプロセスを採用したカスタムシリコンになると強調した。2nmプロセスはチップ業界における現時点での最先端であり、消費電力あたりの演算性能を大幅に引き上げることが期待される。
また、ネットワーキング分野においてもBroadcomのEthernetテクノロジーが、Metaが急速に拡大しているAIコンピュートクラスター全体でシームレスかつ高帯域の接続を可能にする。これにより、個々のチップの性能向上だけでなく、何千ものノードで構成されるクラスター全体の効率も高める狙いがある。
BroadcomのXPUプラットフォームと「チップ共同設計」の意味
今回の発表で繰り返し言及されるのが「XPUプラットフォーム」という名称だ。これはBroadcomが提供するカスタムAIアクセラレーター(XPU)開発向けの技術基盤であり、設計ツールや製造技術、パッケージング手法を含む総合的なエコシステムを指す。MetaはこのXPUプラットフォームを活用することで、汎用GPUでは非効率な自社特有のワークロードに最適化されたチップを量産体制で実現しようとしている。
Broadcomのプレジデント兼CEOであるHock Tanは「このMTIAの初期展開は、今後数年間の大規模な成長軌道に対応するための持続的な複数世代ロードマップの始まりに過ぎない」と述べ、AIネットワーキングとXPUカスタムアクセラレーターへのBroadcomのリーダーシップを強調した。
MetaのCEOであるMark Zuckerbergも、チップ設計、パッケージング、ネットワーキングにまたがるBroadcomとの協業が、数十億人にパーソナルな超知性を届けるために必要な大規模なコンピューティング基盤の構築に向けたものだとコメントしている。
開発難航の経緯と今回の発表の背景
MetaのAIチップ開発には苦労の歴史もある。メディア報道によれば、Metaは「Olympus」というコードネームで呼ばれていたAIモデルのトレーニング向け上位チップを設計上の問題から開発中止に追い込まれていた。この報道を受け、Broadcomの株価にも動揺が走ったが、Broadcom CEOのHock Tanは先月の決算説明会で、最新世代のMTIAチップが市場投入に苦戦しているというレポートの内容を否定していた。
また、2025年9月にはMetaがRivos社(CUDA互換のRISC-V AIスタートアップ)を買収しており、MetaのスポークスパーソンはReutersに対し「カスタムシリコンの取り組みは急速に進展しており、今回の買収でさらに加速する」とコメントしていた。Rivoはこの買収以前からMTIAの設計に関与していたとも伝えられており、Metaが自社チップ開発の体制を着実に強化してきたことが分かる。
他社との競争と業界全体の動向
Metaのカスタムシリコン戦略は、テック大手の中でとりわけ後発ながらも急速に追い上げている格好だ。Googleは2015年に最初のTensor Processing Unit(TPU)を発表しており、AmazonはAWS向けの独自チップを2018年に投入している。両社ともBroadcomの協力のもとシリコンを開発してきた経緯がある。
MetaはNVIDIAのGPUクラスターも引き続き大規模に利用しており、2026年2月にはAMDとも半導体調達に関する合意を締結している。MTIAはあくまでMetaの社内ワークロードに最適化された専用チップであり、大規模な事前学習(プレトレーニング)には依然としてNVIDIA製GPUが使用される。カスタムシリコン開発においてBroadcomが果たす役割の大きさは、競合するハイパースケーラー間でも共通しており、Meta、Google、Amazonと、各社がBroadcomを重用する構図が明確になっている。
なお、今回の協業発表に合わせて、Broadcom CEOのHock Tanは正式な取締役の立場からMetaの戦略的アドバイザーへと役割を移行することが明らかにされた。
投資家への影響
市場の反応も迅速だった。発表後の時間外取引でBroadcomの株価は3%以上上昇した。2029年まで続く長期契約であること、さらに複数ギガワット規模という大規模な展開計画が、Broadcomの収益見通しを押し上げるとの見方が広まったためだ。
今回の協業拡大は、MetaがNVIDIAへの過度な依存から脱却し、独自のAIインフラを構築するという長期的な戦略の一環として位置付けられる。業界初となる2nmプロセスの採用、1GWを超える初期展開コミットメント、そして2029年に向けた複数世代にわたるロードマップは、単なるチップ調達契約にとどまらず、MetaとBroadcomがAIインフラ全体を共同で設計・最適化していく姿勢を示すものだ。カスタムシリコンの本格的な量産フェーズに向けて、両社の協業がいよいよ本格化しはじめたと見てよいだろう。
Share this content:

コメントを送信