OpenAIがGPT-5.6を限定公開、AnthropicはMythos 5の一部復旧に前進
日本時間今日27日OpenAIが次世代フラッグシップシリーズ「GPT-5.6」を発表した一方、Anthropicは米国政府との交渉において、「Claude Mythos 5」の限定再展開が認められた。いずれも米政府の介入という同一の文脈の中で生まれた動きであり、フロンティアAIモデルの公開に対する政府関与という新たな時代を象徴するニュースとなっている。
OpenAI、GPT-5.6を発表、Sol・Terra・Luna
OpenAIは現地時間6月26日(金)、最新フラッグシップシリーズ「GPT-5.6」を発表した。従来の単一モデル発表から大きく方針を転換し、今回は能力レベル別の三バリアント構成での登場となった。最上位の「Sol」はフロンティア推論と長時間のエージェント作業向けのモデルで、中間に位置する「Terra」は日常業務向けのバランス型、「Luna」は高速・低コスト志向の廉価版と位置づけられている。
新しいネーミング体系についてOpenAIは、「数字がモデルの世代を示し、Sol・Terra・Lunaはそれぞれ独自のペースで進化できる持続的な能力層を示す」と説明している。これは従来の「mini」「nano」といった派生名称から脱却し、各ティアの役割を明確に区別しようとする意図が読み取れる。
モデルの能力面では、Solはコーディング・生物学・サイバーセキュリティの各領域で顕著な向上が見られるとされ、通常の推論に加えて「maxモード」と呼ばれる深度推論、さらに複数のサブエージェントが協調して複雑な問題に取り組む「ultraモード」が追加されている。価格は入力100万トークンあたりSolが5ドル(出力30ドル)、Terraが2.50ドル(15ドル)、Lunaが1ドル(6ドル)と設定されており、Solの価格はAnthropicのFable 5(入力10ドル・出力50ドル)の半額以下となる。
公式ブログではSolのキャッシュ機能についても詳細が示されており、明示的なキャッシュブレークポイントのサポートと30分間の最低キャッシュ保持が導入されるという。さらに7月中にはCerebrasのインフラ上でSolを毎秒750トークンという高速レートで提供する予定も明かされた。
安全性については、OpenAIは700,000 GPUホールを費やして安全性テストを実施したと伝えられており、GPT-5.6 Solは「オフェンシブな攻撃を確実に実行するよりも、脆弱性を発見・修正する能力の方が高い」と説明し、同社の準備フレームワークにおける「クリティカル」水準には達していないとしている。
米政府の要請で異例の段階的公開
ただし、これらのモデルにすぐ触れられるのは限られた企業に留まる。発表と同時に明らかになったのは、OpenAIが米政府の要請を受け、約20社の政府承認パートナーのみを対象とした「限定プレビュー」という形でGPT-5.6の提供を開始したという事実だ。一般向けの広範な公開は「数週間以内」を目標とするとしている。
この措置はトランプ政権が6月2日に発令した大統領令に端を発する。同令はAIモデルの安全評価に向けた政府プロセスを30日以内に確立するよう連邦機関に求めており、現時点でその枠組みがなお構築段階にある。OpenAIはサム・アルトマンCEOが6月上旬にホワイトハウス関係者と会議を重ね、約1ヶ月にわたってGPT-5.6のモデル能力と公開計画を政府側に事前に提示してきたとしている。
今回の対応についてOpenAIは公式ブログで「このような政府によるアクセスプロセスが長期的なデフォルトになるべきだとは考えていない」と踏み込んだ立場を表明しつつ、「サイバー大統領令のフレームワークと将来のモデル公開に向けた反復可能なプロセスを政権と協力して構築していく中で、この短期的な措置が今後数週間での広範な公開への最善の道筋だと確信している」と述べている。協力しながらも不満を示すという微妙な姿勢が滲む声明となった。
Anthropic、Mythos 5の部分復旧へ
GPT-5.6発表と同じ日、AnthropicのClaude Mythos 5をめぐる状況でも大きな動きがあった。米商務省のハワード・ルトニック長官が6月27日付でAnthropicのチーフ・コンピュート・オフィサー(CCO)であるトム・ブラウン氏宛に書簡を送り、Mythos 5を米国の100社以上の機関および政府機関へ再展開することを認める決定を伝えた。
ルトニック長官はその書簡の中で、「6月12日付書簡の発出以降、AnthropicはCovered Modelsに関連するリスクへの対処に向けて米政府と協力してきた。この取り組みは著しい前進をもたらした」と述べ、「Claude Mythos 5モデルへのアクセスについて、適切な安全対策が整備されていると判断した。信頼できる特定のパートナーによるアクセスを認める」と記したとされる(Semafor、Bloomberg、NBC Newsなど複数が書簡内容を報道)。Anthropic側は「引き続き政府と協力してMythos 5へのアクセス拡大、およびFable 5の一般向け提供再開に向けた取り組みを進める」とXに投稿した。
今回の部分復旧は、あくまでもMythos 5に限定された措置である点に注意が必要だ。Semaforによれば「書簡はFable 5については沈黙しており」、一般消費者が利用できる状態には至っていない。交渉に近い関係者たちはFable 5についても解禁の方向で議論が進んでいると伝えているが、その時期は依然として不透明なままだ。
6月12日の停止から15日の攻防
6月9日、AnthropicはClaude Fable 5とClaude Mythos 5を同時公開した。Fable 5は一般ユーザーも利用できる強力な汎用モデルとして、Mythos 5はProject Glasswingを通じてサイバーセキュリティ専門機関向けの強力なモデルとして位置づけられていた。
しかしその3日後の6月12日、米国政府から輸出管理指令が届き、AnthropicはFable 5・Mythos 5の両モデルを世界規模で全停止せざるを得なくなった。停止の直接的な契機として報じられているのは、AmazonのアンディCEOがスコット・ベッセント財務長官に対してFable 5が「ジェイルブレイク」されうる脆弱性を有していると伝えたこと、さらに機密システムへのMythos 5の侵入能力に関するNSAの報告などであるとされている。輸出管理規制の性質上、外国籍の従業員がAnthropicおよびパートナー企業に多数在籍しているため、特定ユーザーのみを遮断することは技術的に困難であり、全世界の全顧客へのアクセスを一斉に停止する措置がとられた。
この停止を受け、Anthropicは同社のチーフ・コンピュート・オフィサー、トム・ブラウン氏をはじめとする上級エンジニア陣をワシントンD.C.に送り込み、商務省やホワイトハウス国家サイバー局(ONCD)との交渉を開始した。6月17日にはAnthropicの国際担当マネージングディレクター、クリス・チャウリ氏がソウルでの記者会見において「数日以内にモデルが利用可能になる見通し」と述べたが、その後も公式な復旧アナウンスは出ないまま日数が経過した。Polymarketやその他の予測市場では、6月末までの復旧確率が一時70〜80%とされながらも現実には何度も期待が裏切られてきた。
新たなゲートキーピング体制の始まり
今回のGPT-5.6の限定公開とMythos 5の部分的な再展開承認は、いずれも「フロンティアAIモデルのリリースに政府審査が不可欠となった時代」の到来を示す出来事として捉えられている。
ルトニック書簡を受けて商務省の広報担当ベンノ・カス氏は「2週間という短期間で、米国がAIにおけるグローバルリーダーであり続けながらも安全保障を守るために尽力した」とコメントしており、政府側は迅速な対応という点を強調した。これに対し業界側は、商業企業の競争力や顧客サービスが損なわれる点への懸念を示している。欧州各国の政府やUS同盟国の関係者も、自国の企業や消費者がMythosとFableにいつアクセスできるのか依然として不明なままであることへの不満を表明していると報じられている。
来月8月1日までには、今回の大統領令に基づいてNSA・財務省・CISAが共同で「対象フロンティアモデル(Covered Frontier Model)」のサイバー能力評価プロセスを確立する期限を迎える。この枠組みが整備されれば、今後のモデルリリースに対してより予測可能な審査フローが生まれる可能性があり、OpenAIはその枠組み整備を念頭に置きつつ今回の限定公開を選択したと説明している。一方Anthropicはすでに政府との協議の中でモデルリリースに関する協議への継続的な関与を約束したとも報じられており、いずれの企業も今後の公開プロセスにおいて政府側との緊密な連携が求められる構図となっている。
Fable 5の一般向け復旧はいつか
現時点でAnthropicから公式なFable 5復旧予定日は出ていない。7月8日にはAnthropicが改定したプライバシーポリシーが発効し、政府発行IDと生体認証による本人確認が導入される見通しで、これが米国ユーザー向け先行復旧の仕組みとなると見る観測も多い。しかしその場合、国際ユーザーはしばらくの間Claude Opus 4.8での対応を強いられ続けることになる。
同日に起きたGPT-5.6の発表は、Fable 5が使えない状況でOpenAIの強力な新モデルが利用可能になるという、Anthropicにとって競争的に厳しい局面をもたらしている。価格面でGPT-5.6 Solが大幅に安価な設定となったことも含め、フロンティアAI市場における勢力図は今後数週間で大きく動く可能性がある。Fable 5の復旧と政府との枠組み合意の行方が、その変動を左右する重要な変数となりそうだ。
OpenAI GPT-5.6
https://openai.com/index/previewing-gpt-5-6-sol
Anthropic「Statement on the US government directive to suspend access to Fable 5 and Mythos 5」
https://www.anthropic.com/news/fable-mythos-access
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