ソニーとTSMC、次世代イメージセンサー合弁を発表。熊本新工場を拠点に車載・ロボティクスも視野

Image:Sony,TSMC
ソニーセミコンダクタソリューションズと台湾積体電路製造(TSMC)は2026年5月8日、次世代CMOSイメージセンサーの開発および製造に関する戦略的提携に向けた基本合意書(MOU)を締結したと正式に発表した。本合意書は法的拘束力を伴わないものであり、ソニーが過半数の株式を保有し支配株主となる合弁会社(JV)の設立を検討するとともに、熊本県合志市に新たに建設されたソニーの工場への開発および生産ラインの構築に向けた検討を進めていくとしている。

ソニーグループの半導体事業を担うSSSがイメージセンサー分野で世界シェア首位を堅持するなか、この提携はTSMCとの既存の協業関係をさらに踏み込んだ形で深化させるものだ。今回のMOUは既存のJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)スキームとは異なる、より直接的なイメージセンサーを対象としたパートナーシップであり、ソニーがTSMCとの関係を維持するにとどまらず、積極的に深化させる意向を示すものとして位置づけられる。

合弁会社の概要と熊本新工場の役割

今回の合意に基づき、ソニーおよびTSMCは、JVによる将来的な投資について協議していく。これらの投資については、ソニーによる長崎の既存工場への新規投資とともに、市場の需要に応じて段階的に実施し、日本政府からの支援を受けることを前提に検討するとしている。また、本提携では、車載やロボティクスなどの「フィジカルAI」応用分野における新たな機会の探索・対応も進めていく方針が示されており、将来のイノベーションやさらなる技術発展に向けた基盤を築くことを目指している。

合弁会社が開発・生産ラインを置く予定の熊本県合志市の新工場は、SSSが2024年5月に建設を発表した施設だ。経済産業省は2026年4月17日、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングが熊本県合志市に建設中のイメージセンサー新工場に対し、最大600億円を補助すると発表していた。今回の発表はこの補助決定の直後に相次いで出ており、政府が半導体サプライチェーンの国内強化を引き続き重視していることが改めて浮き彫りになった形だ。

JVはソニーのセンサー設計における知見と、TSMCの製造プロセス技術における強みを組み合わせ、両社の長年にわたるパートナーシップをさらに深化させるものと位置づけられている。なお、JVの設立は今後、法的拘束力のある確定最終契約の締結、および一般的なクロージング条件を満たすことが条件とされており、現時点ではあくまで合意に向けた枠組みの確認という段階にある。

両社トップのコメント

ソニーセミコンダクタソリューションズの代表取締役社長CEOである指田慎二氏は、「長年にわたるTSMCとの協業を通じて培ってきた信頼関係を基盤に、両社のパートナーシップを新たな段階へと進める合意ができたことを、大変心強く感じている。本JVは、両社の強みを掛け合わせ、次世代イメージセンサー分野における技術と事業のさらなる進化を目指す重要な取り組みだ。ソニーは、本JVを起点に、高付加価値を志向した事業運営を一層強化していく」と述べている。

TSMCのシニアバイスプレジデント兼副共同最高執行責任者であるケビン・ジャン氏は、「ソニーは、CMOSイメージセンサー事業におけるTSMCの長年のパートナーだ。AI時代における次世代センシング技術をけん引する重要な一歩として、両社の協業を次のレベルまでに引き上げたことを大変うれしく思う。本提携は、最先端技術と革新的なソリューションを活用し、業界をリードするセンシング技術および製品を提供していくという、両社共通のコミットメントとビジョンを示すものだ」とコメントしている。

JASMとは異なる、新たな協業の形

両社のこれまでの関係を振り返ると、2021年11月に遡る。TSMCとSSSは、半導体に対する世界的に旺盛な需要に対応することを目的に、22/28nmプロセスを皮切りとした半導体の製造受託サービスを提供する子会社Japan Advanced Semiconductor Manufacturing株式会社(JASM)を熊本県に設立し、SSSが少数株主として参画することを発表した。このとき、SSSは約5億米ドル(約570億円)を資本金として出資することにより、20%未満の株式を取得することとなった。

JASMが主にTSMCを主体とし、SSSが少数株主として参画するという構造だったのに対し、今回のJVはソニー側が過半数株式を持ち支配権を握る点が大きく異なる。言い換えれば、製造ノウハウを提供するTSMCを巻き込みながら、センサービジネスの主導権はソニーが握り続けるという設計思想が透けて見える。

また、今回の提携が射程に収めるのは単なるセンサーの製造委託の拡大ではなく、次世代センサーそのものの共同開発だ。SSSは微細な製造プロセスを導入しイメージセンサーの高密度化を進めており、金額ベースのシェア6割を狙っている。この目標を達成するうえで、製造プロセスの微細化においてTSMCの技術力は不可欠な要素となる。

フィジカルAIという新たな市場軸

今回の発表で注目されるのが「フィジカルAI」という切り口だ。これは車載カメラや産業ロボット、あるいはヒューマノイドロボットといった、物理的な環境と直接インタラクションするAIシステムを指す概念であり、近年半導体・センサー業界でも急速に注目度が高まっているキーワードである。スマートフォンカメラ向けが長らくイメージセンサーの主戦場であり続けてきたが、スマホ市場の成熟とともに各社が次の成長エンジンを模索している。

ソニーのイメージセンサーはすでに車載用途での展開を進めており、高い動体解像度や低照度性能が評価されている。自動運転技術の進化やロボティクスの急拡大を背景に、これらの分野向けセンサーには高い性能水準と安定した供給体制の両立が求められる。今回の提携において車載やロボティクスなどのフィジカルAI応用分野における新たな機会の探索・対応も視野に入れているという方針は、こうした産業構造の転換を踏まえたものと読み取れる。

決算発表と同日の発表が示す戦略的意図

ソニーグループはこの日、FY2026(2026年度)の営業利益として1兆6000億円を見通すと発表し、5000億円規模の自社株買い、1株あたり35円の配当を計画していることも同時に発表した。決算発表という場に合わせてTSMCとのMOU締結を同日に開示したことは、投資家に向けて半導体事業の将来性を強調する意図があったとも捉えられる。イメージセンサー事業はソニーグループ全体の屋台骨の一つであり、その技術的優位を維持・拡大するための投資姿勢を明確に示した格好だ。

現段階では法的拘束力を持たない基本合意にとどまっており、正式な契約締結に向けた交渉が続く。JVへの具体的な出資比率や投資規模、製造するセンサーのプロセスノード、そして量産開始の時期などは今後の協議次第だ。また、日本政府の支援を前提としている点からも、経済産業省の関与する補助金制度の枠組みがどのように設定されるかが重要な変数となる。

SSSの指田慎二社長CEOはかねて「経営はやはり数字だ。掲げた目標をしっかり達成したい」と発言しており、金額ベースのシェア6割という目標の達成に向けて、技術・製造両面での施策を積極的に展開してきた。今回のTSMCとのJV設立計画は、その路線の延長線上にある最大規模の施策の一つと位置づけることができる。両社がどのような技術ロードマップのもとでセンサーの次世代化を進めるのか、詳細の開示が待たれる。

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