Appleがチップの一部をIntelが製造することに合意の可能性、TSMCからまたIntelに?

AppleとIntelが、Appleデバイスに搭載される一部チップの製造をIntelが担う予備的な契約に合意したことが、事情に詳しい複数の関係者の話として明らかになった。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が2026年5月8日に報じたもので、半導体業界に大きな波紋を広げている。

1年以上に及んだ交渉の末に合意へ

両社の交渉は1年以上にわたって続けられており、最近数ヶ月で正式な予備契約がまとまったとされる。この報道に先立ち、ブルームバーグもAppleとIntelの間で協議が進んでいることを伝えていた。

ただし、現時点では、IntelがどのApple製品向けのチップを製造することになるのかは明らかにされていない。Appleは毎年2億台以上のiPhoneを出荷しており、iPadやMacといったデバイスも数千万台規模で販売している。製造を担当する製品の範囲が確定すれば、その影響は極めて大きいものになる。

なお、今回の契約においてIntelはあくまでファウンドリ(受託製造)としての役割を担う。チップの設計はこれまでどおりAppleが社内で行い、Intelはその設計を受け取って製造するという分業体制となる。Appleのカスタムシリコン戦略は同社の最重要な技術的優位のひとつであり、この点は変わらない。

TSMCへの依存が招いた供給リスク

AppleがIntelを新たな製造パートナーとして迎え入れようとしている背景には、長年にわたるTSMC依存のリスクが顕在化してきたことがある。

AppleはiPhone・iPad・Mac・Apple Watchをはじめとする幅広いデバイスに搭載するチップのほぼすべてをTSMCに発注しているが、AIチップ需要の急増によってTSMCの製造キャパシティは限界に近い状態にある。NvidiaをはじめとするAI半導体メーカーがTSMCの製造枠を大量に確保するなかで、AppleはかつてほどのレバレッジをTSMCとの交渉で発揮できなくなっている。

Appleはこの問題を半ば公式に認めている。最新の決算発表においてCEOのティム・クックがチップの供給制約に言及したことが、今回の動きの背景にあるとされる。

Appleにとって今回のIntelとの合意は、製造リスクの分散を意味する。TSMCの製造枠が逼迫するなか、追加の供給能力を確保できる選択肢を手に入れることが主な目的だ。

かつてのライバルとの「再会」

AppleとIntelの関係は複雑な歴史をもつ。AppleはApple Siliconへの移行前、MacにはIntel設計のx86プロセッサを使用していた。しかしIntelがチップの供給スケジュールを繰り返し遅延させたことがAppleのMac事業の競争力を損ない、2020年に独自設計のArmチップへの全面移行を宣言するに至った。

当時、IntelにはAppleのiPhone・iPad向けA-seriesチップを製造する機会があったが、結果的に失注に終わった。ティム・クックがTSMCの創業者モリス・チャンに「Intelはファウンドリのやり方を理解していない」と不満を伝えたと伝えられている。

それから数年が経ち、IntelはFoundry事業を本格化させ、外部顧客向けにチップを受託製造するビジネスモデルへの転換を推進してきた。今回のAppleとの合意は、Intel Foundryにとって大きな正当性の証明とみなされている。

Intel 18Aプロセスが焦点に

今回の契約で注目されるのは、Intelのプロセスノードである「18A」の存在だ。Intelの最先端製造プロセス「18A」(18オングストローム、すなわち1.8ナノメートル相当)は、TSMCの最先端2nmプロセスと競合する位置づけにある。

18Aの主要な革新のひとつは、電源供給の配線をトランジスタの下に配置したことで、トランジスタ上部のインターコネクト(配線)のスペースが広がった。これにより、配線同士の干渉が減少して性能が向上する。さらに一部の配線距離も短縮されており、データがトランジスタにより早く到達する設計となっている。

業界アナリストのバジャリン氏によれば、Appleが実際に採用する可能性が高いのは、現行の18Aのさらなる改良版である「18A-P」だという。バジャリン氏は現行の18Aを「やや粗削り」と評しつつ、18A-Pでは多くの点が改善されるとし、早ければ来年(2027年)にも量産が可能になるとの見通しを示した。18A-Pは同じ消費電力で標準の18Aより9%高い性能を実現するとされる。

さらに長期的な視点では、AppleはIntelの次世代プロセスである「14A」(1.4nmノード)の登場を待っている可能性もある。14Aは2027年に量産開始、2028年中頃に広く展開される見通しだ。

対象製品はMシリーズの低価格帯か

どの製品向けのチップが今回の契約の対象となるのかについては、著名アナリストのミン・チー・クオが昨年末時点で一定の予測を示している。クオ氏によれば、AppleはすでにIntelとNDA(秘密保持契約)を締結し、18A-Pのプロセス設計キット(PDK)0.9.1GAを受け取って内部シミュレーションを進めているとされる。この対象となるのは、MacBook AirおよびiPad Proに搭載されているエントリーレベルのMシリーズプロセッサだという。

クオ氏はまた、AppleがIntelを使う動機は二重になっていると指摘する。iPhoneや上位MシリーズなどフラッグシップはTSMCへの依存が続く一方、最もシンプルなMacクラスのSoCを別の製造元に分散させることで、単一ファウンドリへの過度な依存を解消するという狙いがある。

Macworldは、AppleがまずApple WatchのS-seriesや、ネットワーク機器向けのNシリーズ・CシリーズといったApple Watch用チップのような、最先端でないプロセスを必要とするチップから委託を始める可能性を指摘している。チップ設計はファウンドリのプロセスに密接に依存しており、既存の設計をそのまま別の製造工場に持ち込むことは技術的に容易ではないためだ。

Intel株が急騰、TSMCは静観の構え

この報道を受けた市場の反応は劇的だった。IntelがAppleとのチップ製造合意に達したとの報道を受け、Intel株は約19%急騰して過去最高値を更新した。Appleの株価も同日に約2%上昇し、市場全体として好意的に受け止められた。

一方、既存の最大サプライヤーであるTSMC側の反応も注目されている。TSMCの社長兼CEOであるC.C.ウェイ氏は先月、Intelを「手強い競合」と表現した。これはAppleという最大顧客の一部をIntelに奪われる可能性を前に発言を和らげたものではないかと、業界アナリストのバジャリン氏は解説している。

ただし実際の影響については、Apple・Intel間の合意はTSMCのビジネスには影響しないとの見方もある。TSMCはすでに「全力で製造している」状態にあり、Appleの一部注文がIntelに移ったとしても、TSMCとしては既存の製造枠をAI用チップで埋め合わせることは難しくないためだ。

Intel Foundryにとっての意義

IntelはFoundry事業を本体から切り離し、他社向けにチップを受託製造するビジネスとして独立させた。その後も遅延や低い歩留まり、財務的な困難が続いたが、ようやく18Aノードが量産フェーズに入った。

MicrosoftがIntelの18Aプロセスを用いたチップ設計を発表し、Amazon Web ServicesもIntelと18Aでのカスタムチップ製造契約を締結している。こうした実績の積み重ねを経て、今回Appleという世界最大の消費者向け電子機器メーカーとの契約が成立したことは、Intel Foundryにとって正念場を乗り越えたことを示す象徴的な出来事といえる。

Appleのような世界有数の消費者向け電子機器メーカーからの安定した受注を得ることは、Intelにとって評判の面でも、厳しい状況にある製造事業の面でも大きな後押しとなる。

今回の合意はあくまで「予備的」なものであり、最終的な契約の詳細や量産時期などはいまだ流動的だ。しかしAppleが長年にわたって一社に委ねてきた先端チップの製造を分散させる方針を打ち出したことは、半導体業界全体の構造変化を加速させる可能性がある。AppleとIntelがどのような形での製造協力を具体化させていくのか、引き続き注目が集まっている。

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