Samsung、ストライキまであと11日。1人につき日本円で約5000万円のボーナス要求、半導体・AI業界等に影響は
韓国サムスン電子の半導体部門で働く労働組合員らが、AIブームによる記録的な利益の分配を求めてストライキを予告している。予告されているストライキの開始日は2026年5月21日。本稿執筆時点(5月10日)から数えると、残り11日となった。交渉が決裂すれば、同社史上2度目の全面ストライキが18日間にわたって展開される見通しだ。世界の半導体サプライチェーンや、AI向けメモリ需要の供給体制に与える影響への懸念が急速に高まっている。
拒否された約5000万円のボーナス、求める水準はSK Hynix並みの約1億3000万円
今回の労使対立の核心は、超過業績インセンティブ(OPI:Over-Performance Incentive)制度の見直しをめぐる対立にある。組合側は、年間給与の50%を上限とするボーナスキャップの撤廃と、より透明性の高い算定方式の導入を要求している。具体的には、半導体事業の営業利益の15%をボーナスプールとして配分するよう求めた。
これに対しサムスン経営陣は、営業利益の10%配分と6.2%の賃上げ、さらに優遇金利での住宅ローン提供といった条件を提示。その後、双方は13%の配分で一定の歩み寄りを見せているが、毎年保証される形での支給とするかどうかという点で折り合いがついていない。
経営側が提示した条件を金額換算すると、1人あたり約34万ドル(約5000万円)に相当する。しかし組合側はこの金額に満足せず、SK Hynixが従業員に支払う水準、すなわち約90万ドル(約1億3000万円)に近い報酬体系を求めている。AIブームによって半導体部門が空前の利益を上げるなか、その恩恵を誰が享受するのかという問いが、労使間の溝を広げている。
3万人超が街頭へ、4月の1日行動ですでに生産が58%減
4月下旬、韓国・平沢市のサムスン工場敷地内に数万人規模の従業員が集結し、ボーナス上限の撤廃と透明性ある補償制度の実現を訴えるデモを行った。組合側の発表によると参加者は約4万人にのぼった。
この抗議行動はすでに具体的な影響を及ぼしている。4月に実施された1日限りの行動では、夜間シフトだけで生産量が58%落ち込んだことが確認されている。これが18日間にわたる全面ストライキに発展した場合、その損失規模は比較にならないレベルになる。
韓国メディアが報じた外部の試算によれば、18日間のストライキによる損失額は20兆〜30兆ウォン(約2〜3兆円)に達する可能性があるという。また、成均館大学のクォン・ソクジュン教授はフィナンシャル・タイムズに対し、直接損失だけで69億〜117億ドルに上る可能性があると述べており、間接損失はさらにこれを上回ると指摘している。
会長も異例の内部警告、「韓国経済全体への深刻な影響」
事態の深刻さを受け、サムスン電子の申在潤(シン・ジェユン)取締役会議長は5月5日付の社内メモで、従業員に向けて異例の直接訴えを行った。計画中のストライキが実行されれば投資家や従業員に打撃を与えるだけでなく、「韓国経済に深刻な結果をもたらしかねない」と警告した内容で、市場リーダーシップを失う可能性、顧客の流出、企業価値の低下、さらには資本流出や国税収入の減少、ウォン安のリスクまで列挙した。
申議長は「誠実な対話を通じて問題を解決するときだ」と述べ、現在の対立が将来的な健全な労使関係の礎になるよう願うと訴えた。
韓国の政治的な場面でもこの問題は取り上げられており、李在明(イ・ジェミョン)大統領が特定企業名を挙げることなく「一部の組織された労働者による行き過ぎた要求」を批判したと韓国メディアは伝えており、サムスンをめぐる議論を念頭に置いた発言として広く受け止められている。
内部分裂も、スマートフォン・家電部門の組合員は離脱
今回の交渉が複雑なのは、仮にサムスン経営陣が半導体部門の要求を丸のみした場合、スマートフォンやテレビ、家電部門など、利益規模が小さい事業部の従業員が不公平感を抱きかねない点にある。これを理由に、スマートフォン・TV・家電部門の組合員を中心とする一部の小規模組合が、計画されていた共同ストライキから離脱したと伝えられている。
成均館大学のクォン教授は、半導体部門が求める営業利益の15%をボーナスとして配分した場合、グループ全体の賃金構造に対するプレッシャーが「不快なほど急速に膨らむ」と表現した。サムスン電子の半導体部門がスタンドアローンのファブとして機能するSK Hynixとは異なり、より大きなサムスングループの傘下にある構造的な問題が、交渉の自由度を著しく制約している。
AIブームで際立つSK Hynixとの格差、HBM4の信頼性にも影
この騒動が起きている最中、ライバルのSK Hynixは別の意味で注目を集めた。4月下旬、SK HynixはAIインフラへの世界的な投資とデータセンター向けメモリ需要の急拡大を背景に、2026年第1四半期において過去最高の売上高と営業利益を記録したと発表した。HBMをはじめとするAI向けメモリ製品で競合との差を広げつつあるSK Hynixと、労使交渉の混乱にさらされるサムスンという対比は、業界内外に強い印象を残している。
半導体アナリストのSong氏は、「グローバルな大手テック企業がリスク分散を目的に代替サプライヤーとしてTSMCなどへの切り替えを検討し始める可能性がある」と指摘する。「半導体業界では、プロセス検証に膨大な時間とコストがかかる。一度離れた顧客を取り戻すのは容易ではない」。
別のアナリストは「NvidiaやTSMC、Intelがリーダーシップを争うAIチップの世界で、サムスンは内部紛争にリソースを費やす余裕はない」と述べた。「半導体技術は1〜2年遅れるだけで競争力を失う」という言葉は、今の状況を端的に言い表している。
特に懸念されるのがHBM4(第5世代高帯域幅メモリ)の供給体制だ。クォン教授は、ストライキが長期化すればHBM4チップのサプライヤーとしてのサムスンの評判に傷がつくと警告しており、3大メモリ・ストレージチップメーカーの熾烈な競争において、これは致命的なダメージになりかねない。HBM4はNvidiaの次世代GPU向けに広く採用が見込まれており、製造スケジュールの遅延は顧客との信頼関係を大きく損ないかねない。
歴史的な背景、2024年に続く2度目のストライキとなるか
今回の動きが実行されれば、1969年の創業以来サムスンでは2度目の全面ストライキとなる。1度目は2024年7月に発生し、25日間にわたって続いた。その経験を踏まえても、今回の18日間ストライキが持ちうる破壊力は過小評価できない。4月の単日行動で夜間シフトの生産が半減以下になったことが、その現実を如実に示している。
残り11日、交渉妥結の鍵は「一時金か、恒久的な年次保証か」
現時点でサムスンと組合が争っているのは、ボーナスの「配分率」だけではなく、それが「毎年保証されるものか否か」という構造的な問いにある。13%という配分率では双方が暫定的に歩み寄ったとされるが、年次保証という形を経営陣が受け入れるかどうかが、交渉決裂か妥結かの分水嶺になっている。
組合にとって、一時金では不十分だ。AIブームによる利益が継続的に拡大するなかで、毎年その恩恵を確実に受け取る権利を求めているのである。これはサムスンという一企業の問題にとどまらず、AI産業の成長によって生じた富の分配のあり方をめぐる、より広範な議論の縮図でもある。
5月21日まで、残り11日。世界の半導体・AI業界が固唾をのんでソウル郊外の工場団地を見守っている。
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