TOTOがAIチップの部品へ進出を発表か トイレ技術が半導体を支える。
「トイレのTOTO」として広く知られる住宅設備大手のTOTOが、AIブームを背景に半導体関連銘柄として急速に再評価されている。同社がAIチップを含む半導体製造装置向けの精密セラミック部品事業を急拡大させており、2026年3月期には当該事業の営業利益が連結全体の半数を超える見込みとなった。「水まわり企業」というイメージとはかけ離れた展開に、市場関係者の視線が集中している。
衛生陶器の「焼き技術」が半導体を支える
TOTOがセラミック事業に本格参入したのは1984年のことだ。蛇口や洗面器に始まり、衛生陶器の製造で100年以上かけて磨き上げたセラミック焼成技術は、やがてエレクトロニクス産業へと活路を見出していった。
TOTOの半導体事業の売り上げの多くを占めているのが、「静電チャック」と「AD(エアロゾルデポジション)部材」と呼ばれる半導体部材だ。静電チャックとはその名のとおり、電気的な力でシリコンウェハを吸着・固定するための装置であり、半導体製造装置の心臓部ともいえる存在だ。製品ごとにサイズや性能仕様が異なり、年単位での交換需要も発生するため、一度採用されれば安定した継続収益につながる。
「チャンバー内は強力なプラズマが飛び交う過酷な環境ですが、数ナノレベルの最先端半導体では1ナノメートルの”ちり”も許されません。極限の環境でも発塵しない。高い耐久性を持つ部材を提供できるのが、私たちの最大の強みです」と担当者は語る。
衛生陶器を「汚れない・割れない・均一な品質」で焼く技術と、半導体チャックを「極低温で歪まない・汚染ゼロ・温度均一」で焼く技術は本質的に同じセラミクス焼結技術だ。TOTOの創業は1917年。100年以上かけて磨いたセラミクスの知見が、そのままAI時代の競争優位になっている。
利益の半分を稼ぎ出す「もうひとつのTOTO」
長らくTOTO全体のなかでひっそりと存在していたセラミック事業は、2020年代に入って急激な飛躍を遂げた。
TOTOの半導体関連部材を含む「新領域事業(セラミック事業)」の2025年3月期の売上高は503億円(前年比プラス138億円)。TOTO全体の売上高7,245億円に対して1割以下と小さい。それにもかかわらず、同事業部ではTOTOの全営業利益485億円中約4割となる204億円(前年比95億円増)を稼ぎ出す。
規模こそ小さいが、その収益性の突出ぶりは際立っている。2025年度はTOTOの連結営業利益525億円のうち新領域事業は265億円を見込んでおり、日本住設の225億円を上回る計画となっている。住宅設備が本業のはずの企業で、半導体部材がすでに国内住設事業を利益規模で上回ろうとしている構図だ。
チップレット集積という新フロンティア
この事業をさらに押し上げるとみられているのが、生成AIの普及に伴う半導体の高度化と、それに連動した製造工程の変化だ。
半導体の製造工程は、シリコンウエハに回路を描く「前工程」と、ウエハから個々のチップを切り出し、外部との電気的接続を可能にするための組立を行う「後工程」に分かれる。これまでは主に前工程でTOTOの部材が使われてきたが、近年特に生成AIなどの普及に伴う半導体の高性能化により、後工程でTOTOのエンジニアリングセラミックスが使われるようになってきている。
なぜ後工程でも需要が生まれているのか。その背景には、半導体産業が直面する「微細化の限界」がある。半導体は、前工程の回路の線幅をより微細にすることで性能が高まるが、微細化には限界が指摘され始めている。そこで近年は、機能別のチップ同士を一つのパッケージに組み合わせていく「チップレット集積」という新しい技術が注目されている。
このチップレット集積は前工程同等にシビアな精度管理が必要とされる世界だ。チップ同士をつなぐ配線の位置が少しでもずれると電子回路がつながらず半導体として機能しない。1ミクロンのずれも許されない極めて過酷な要求だが、TOTOのエンジニアリングセラミックスやエアスライドの技術が実現する「圧倒的な精度」がこの微細な製造工程を支えている。
チップを横に並べるだけでなく、垂直に積み上げていく積層技術まで含めれば、後工程における精密部材の需要は今後さらに広がることになる。AIチップがより大型・高集積化していくにつれ、TOTOのエンジニアリングセラミックスが活躍できる場面は確実に増えていくという見立てだ。
スマートファクトリーがさらなる競争優位を生む
高い収益性の背景には、AI需要という外部要因だけでなく、工場内部での地道な改革もある。
中津工場では静電チャックなどの製造・検査工程において、AIによる自動判定や製品状態のリアルタイム監視を導入した。静電チャックの製造リードタイムは従来の約3分の1に減った。TOTOセラミック事業部上席エグゼクティブアドバイザー/フェローの宮地淳氏は「中津工場の生産性はスマートファクトリー化で大きく高まった」と話す。人員あたりの生産性は従来比1.5倍に向上した。
AIを活用した半導体部品の製造、という構図が成立していることも注目に値する。AI需要を支えるために自社の工場もAIで効率化するという循環が、TOTOのセラミック事業の収益力を底上げしている。
市場が気づいた「隠れた半導体銘柄」
こうした事業構造の変化を市場が認識し始めたのは、2026年に入ってからのことだ。
AIブームを理由に2026年1月22日、TOTOの株価は一時11%も急騰し、5年ぶりの上昇率を記録した。さらに、2026年2月17日、活動家投資ファンドのPalliser Capitalが日本のトイレメーカーTOTOに書簡を送り、「TOTOはAIメモリ半導体の最も過小評価された受益者だ」と宣言した。
Palliser Capitalは静電チャックについて「5年間の技術的モート(堀)がある」と分析している。技術の参入障壁の高さが、こうした外部評価を引き出した形だ。
現在のPERは35倍前後と、住設大手のリクシルなどと比較しても割高感が意識されやすい水準にある。しかし、不動産市況に左右されにくい強固な事業ポートフォリオと、AI半導体という成長エンジンを手に入れた同社に対し、市場の評価軸は明らかに変わりつつある。
TOTOは半導体製造装置向けにコア部品を供給する新領域のセラミックス事業を強化しており、「中期的に(現在の)数十倍の受注が見込める」と期待する。2026年度までの3カ年中期経営計画で同事業の開発・増産に290億円を投資する。
中国住設の不振を補う戦略的柱
セラミック事業がTOTO全体の成長に不可欠な位置を占めるようになった背景には、海外住設事業の苦境もある。
住宅設備メーカー大手・TOTOにとって、中国はかつて有望市場だった。2021年度の中国大陸事業は営業利益158億円と、全社営業利益の3割を稼いでいた。しかし中国の住宅市況悪化が直撃すると、逆回転が始まる。24年度の中国大陸事業は営業損失36億円へ転落した。
この逆風を吸収しているのが、まさにセラミック事業の爆発的な成長だ。中国事業という重しを抱えながらも全社業績を押し上げられている構造は、半導体部材事業がいかに戦略的な意味を持つかを物語っている。
「トイレのTOTO」が刻む新たな歴史
TOTOは現在も水回り製品の企業であることに変わりはないが、その収益を支える主役は静かに交代しつつある。生成AI需要が高まり、そのデータを蓄積するためのデータセンターが増えると、そこで使われるNAND型フラッシュメモリおよびTOTOの静電チャックへの需要が増えると考えられる。シリコンサイクルの浮き沈みは発生すると考えられるが、長い目で見れば、間違いなく右肩上がりで伸長していく市場だ。
チップレット集積という次世代アーキテクチャが標準になっていくにつれ、TOTOのエンジニアリングセラミックスが求められる場面は前工程・後工程の双方にわたって広がっていく。1917年に創業し、100年以上かけてセラミックスの技術を磨いてきた北九州の老舗企業が、今やAI時代の半導体サプライチェーンを陰から支える存在として世界から注目されている。
この話が水に流されないといいですね🚽
すいません
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