KIOXIAの株がついに10万円台に。”AIブーム”はいつまで続くのか

KIOXIAロゴ。公式サイトから

Image:KIOXIA
2026年6月19日、東京株式市場で半導体メモリー大手のキオクシアホールディングス(証券コード285A)の株価が終値で前日比12.07%高の10万8600円まで上昇し、上場来初めて10万円の大台に乗せた。前週末からの値動きを引き継いで連日で上場来高値を更新する展開となり、終値ベースでも10万円台を維持して取引を終えた。
2024年12月18日の上場時、公開価格は1455円、初値は公開価格をわずかに下回る1440円という「公募割れ」スタートだったことを思えば、1年半というごく短い期間で約62倍の6,269.50%にまで膨れ上がった計算になる。日本株市場全体が史上最高値圏で推移するなかでも、キオクシア株の値動きは際立って激しく、その存在感は日に日に増している。

マイクロン急騰の波及で大台突破

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今回の10万円乗せの直接的なきっかけは、海の向こうの米国市場にあった。6月18日の米国株式市場で、半導体メモリー大手のマイクロン・テクノロジーの株価が前日比8.70%高と急伸し、同業のサンディスクも11.54%超上昇するなど、メモリー関連銘柄に買いが集まった。背景には、米アップルの最高経営責任者が製品の値上げは避けられないと言及したことや、トランプ大統領がアップルと半導体大手インテルとの米国内における半導体設計提携に触れたことがあったとされる。これを受けて米フィラデルフィア半導体株指数(SOX)は6.42%高と大幅に上昇し、最高値を更新した。

この流れをそのまま引き継いだ19日の東京市場では、朝方からキオクシアやアドバンテストなど人工知能関連株を中心に買いが先行し、日経平均株価は一時900円近く上昇して7万2000円に迫る場面もあった。もっとも、短期的な過熱感を意識した利益確定売りも次第に強まり、日経平均は午後に一時500円超下落して節目の7万1000円を割り込む場面も見られた。結局、終値は前日比196円57銭高の7万1250円06銭となり、7営業日続伸、5日連続での史上最高値更新となった。7営業日連続の上昇は2025年4月23日から5月2日にかけて以来のことであり、週間の上昇幅としては過去最大を記録したと報じられている。25日移動平均線からの上方乖離率は8.40%、13週線からは15.96%に達しており、テクニカル指標の上では買われ過ぎのゾーンに入っていることもあわせて指摘されている。

8%安の翌日に12%高、乱高下が示す過熱感

キオクシア株のここ数週間の値動きを振り返ると、一直線の右肩上がりというよりも、乱高下が目立つ。6月3日には日経平均が終値で6万8402円と当時の最高値を更新したのと同じ日に、キオクシア株も8万3140円まで上昇し、時価総額は45兆円に到達してトヨタ自動車の時価総額を一時的に上回った。しかしその後は一本調子の上昇とはならず、6月8日には前日比8.01%安の7万1880円まで急落、翌9日には6.36%高、10日には7.78%安、11日には7.01%高、12日には7.64%高、15日には11.96%高と、文字通り値幅の大きい往来が連日続いた。15日には終値ベースで9万円を上回り、上場来高値を更新している。

こうした値動きの荒さは、信用取引で空売りを仕掛けていた投資家にとっては大きな打撃になったようだ。さすがに上がりすぎではないかと判断してキオクシア株を空売りした個人投資家が、その後の急騰局面で追証の発生に追い込まれ、AIブームの相場で積み上げてきた資金を一気に失ったとする報道も出ている。値動きの規模を示す材料として、6月11日にはキオクシア1銘柄だけで売買代金が3兆7500億円に達したとも伝えられており、これは日本株市場における単一銘柄の1日の売買代金としては記録的な水準とされる。Yahoo!ファイナンスが集計した個人投資家の見通しでは、強く買いたいが70%超、買いたいを合わせると8割超が強気の姿勢を示しており、市場心理は依然として楽観に傾いている。

トヨタを脅かす時価総額、ストックオプションにも含み益

株価の急騰にともない、キオクシアの時価総額も急拡大を続けている。6月3日に45兆円へ到達して以降、乱高下を経ながらも上昇基調を保ち、6月19日時点では一部報道で59兆円規模に達したとされる。長らく日本企業の時価総額首位の座にあったトヨタ自動車との差は、局面によっては数兆円規模まで縮まっており、両社の首位攻防が市場の話題になっている。

急成長の恩恵は従業員にも及んでいる。上場の際、役員を除く部課長クラスの主要人材およそ600人に対して、合計約680万株分のストックオプションが付与されたと報じられており、権利行使価格は1667円に設定されている。仮に株価7万円で試算した場合、1人当たりの含み益は7.7億円規模になるとの試算も伝えられており、AIブームが個人の資産形成にまで波及している様子がうかがえる。

業績を押し上げるAI需要、NAND市況の構造変化

株価急騰の背景には、裏付けとなる業績の伸びがある。キオクシアが5月15日に発表した2026年3月期、すなわち2025年4月から2026年3月までの通期連結決算は、売上収益が2兆3376億円、営業利益が8703億円となり、2期連続で過去最高を更新した。売上収益は前期比37%増、営業利益は同93%増という大幅な伸びで、なかでもデータセンター向けSSDを含むSSDストレージ部門は、AI推論サーバー向け需要の拡大を背景に前期比37.5%増の1兆3626億円を売り上げた。同時に発表された2026年4月から6月期の連結純利益見通しは、前年同期の48倍にあたる8690億円とされ、事前の市場予想平均を大きく上回る水準となっている。世界の生成AI投資の恩恵を日本企業のなかでも最大級に受ける企業のひとつとされる所以だ。あわせて、米国の証券取引所へ米国預託証券を上場させる計画も明らかにされており、グローバル投資家からの資金調達網を広げる動きも進んでいる。

この業績拡大を支えているのが、AIデータセンター向け需要の急拡大によるメモリー市況全体の構造変化だ。調査会社の分析によれば、2026年第1四半期のDRAM契約価格は前四半期比でおよそ90から100%という記録的な上昇を見せ、それまで比較的落ち着いていたNANDフラッシュメモリーも同じ四半期に同水準の上昇率に転じた。AI向けサーバーの需要拡大を受けて、サムスン電子やSKハイニックス、マイクロンといった大手各社が高帯域幅メモリーなどAI向け高付加価値製品の生産に経営資源を優先配分しており、その結果としてパソコンやスマートフォン向けの一般的なメモリーまで品薄と値上がりが連鎖している構図だ。調査会社のIDCは、この需給逼迫を単なる循環的な不足ではなく、世界のシリコンウエハー生産能力の恒久的かつ戦略的な再配分である可能性があると位置づけている。一部の業界関係者からは、メモリー価格の高止まりは2027年から2028年ごろまで続くのではないかとの見方も出ている。

東芝メモリからの軌跡、ベインキャピタルの巨大なリターン

いまでこそ日本株市場をけん引する存在となったキオクシアだが、その出発点は決して順風満帆ではなかった。前身となる東芝メモリは、親会社の東芝が米原子力子会社ウェスチングハウスの経営破綻の影響で財務基盤を大きく毀損したことを受け、2017年に分社化され、株式の売却交渉が進められた経緯を持つ。最終的に2018年6月、米投資ファンドのベインキャピタルを中心とする日米韓連合が約2兆円で東芝メモリの全株式を取得し、2019年10月に現在の社名であるキオクシアに変更された。NAND型フラッシュメモリーは1987年に東芝の技術者だった舛岡富士雄氏が発明した技術であり、キオクシアはその正統な後継企業として、サムスン電子と並ぶ世界トップクラスの開発力を持つとされる。

2024年12月の上場以降、ベインキャピタルは保有株式の一部売却を進めており、2026年2月時点で保有比率は37%まで低下したと報じられている。それでも株価の急騰を受け、ベインキャピタルがキオクシア株への投資で得た評価益は2026年6月時点でおよそ2.4兆円規模に達していると伝えられ、投資額に対するリターン倍率は約20倍に上るとの試算もある。SKハイニックスを含む日米韓連合全体が保有する株式の評価益を合算すると、最終的な利益総額は700億ドル規模、日本円で11兆円を超える可能性があるとの市場予想も出ている。経営危機にあった東芝の半導体事業を底値で引き受けたプライベートエクイティファンドの賭けが、AIブームという巨大な追い風を受けて、日本のM&A史上でも屈指の成功事例に変わりつつあるということだろう。

強気と弱気が交錯する市場、繰り返されてきたシリコンサイクル

もっとも、すべての市場参加者がキオクシア株の先行きに強気というわけではない。指摘されている懸念材料は多岐にわたる。上場からすでに50倍を超える上昇を遂げていること、実績ベースの株価収益率がおよそ75倍という高水準にあること、業績がNAND価格の動向に強く依存していること、株価が米国のメモリー関連株と高い相関を持つこと、そして単一事業に収益が集中する事業構造であることなどが、繰り返し指摘されてきた。NAND型フラッシュメモリーの市況は、過去にも需給バランスが崩れるたびに価格が急落し、業界全体が赤字に転落する局面を経験してきた、いわゆる3年から4年周期のシリコンサイクルを持つ業界でもある。さらに、キオクシアの強みはNAND専業ゆえの恩恵にある一方、AI学習向けの主役であるHBMやDRAMの事業を持たないという構造的な弱点も抱えている。エヌビディア向けHBMをほぼ独占的に供給するSKハイニックスや、米国市場での存在感を強めるマイクロンと比べると、AI銘柄としての純度ではやや見劣りするとの見方も根強い。

日本株市場全体に目を向けても、過熱を懸念する声は珍しくない。日経平均株価は2025年10月27日に終値ベースで初めて5万円台を突破して以降、わずか半年あまりで6万円、さらに7万円台へと駆け上がった。東京、名古屋、福岡の3市場の合計時価総額は2026年4月時点でおよそ1300兆円に達し、日本の2025年度名目国内総生産、約664兆円の2倍前後にまで膨らんでいる。30年以上日本株に投資してきたという欧州の機関投資家からは、1990年代後半から2000年にかけてテクノロジー株主導で株価が最高値を更新し続けた、いわゆるITバブル当時の相場と似てきているのではないかとの指摘も出ているという。実際、米国市場でも2026年に予定される宇宙開発企業スペースXや対話型AI企業オープンAIの新規株式公開をめぐり、AIブームがバブルとして崩壊するのではないかという議論がウォール街で交わされている。AI関連企業向けの大型資金調達も相次いでおり、対話型AI開発企業のアンソロピックは650億ドル規模のシリーズH資金調達を完了し、投資後の企業価値はオープンAIをも上回る9650億ドルに達したと報じられた。

その一方で、強気な見方を崩していない市場関係者も多い。野村証券は2026年5月時点で日経平均株価の年末見通しを6万8000円へ上方修正し、上振れシナリオでは年内の7万円台突破もあり得るとしていたが、その想定は6月時点ですでに現実のものとなった。市場関係者の一部からは、7万円は通過点に過ぎず、AIブームが続く限り上昇基調は変わらないとの声も聞かれる。

“AIブーム”はいつまで続くのか

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キオクシアの株価が初めて10万円の大台に乗せたという出来事は、単に一企業の株価上昇という以上の意味を持つ。生成AIの普及に伴うデータセンター投資の拡大が、半導体メモリーという地味な部材の需給構造を根本から変え、その恩恵が日本の株式市場全体を押し上げているという、ここ数年の大きな潮流を象徴する出来事だからだ。NAND型フラッシュメモリーという単一事業に賭けてきたキオクシアにとって、AI推論サーバー向け需要の急拡大は会社の存続基盤そのものを変える追い風となり、東芝から分社された苦難の歴史を知る投資家ほど、その変貌ぶりに驚きを隠せないだろう。

ただし、過去のシリコンサイクルが示す通り、メモリー市況は需給が逼迫すれば反動として下落局面も訪れやすいという業界特性を持つ。株価収益率の水準や日経平均株価と国内総生産の比率といった指標が示す過熱感、そして米国市場で進むAI関連企業の相次ぐ大型上場や資金調達をめぐるバブル論争を踏まえれば、AIブームが現在のペースのまま無限に続くと楽観視するのは早計だろう。それでも、AIデータセンター向け需要の急拡大という構造変化が一過性のブームにとどまらず、向こう数年単位の中期的な需給逼迫として続く可能性を指摘する調査会社も少なくない。キオクシアの株価がどこまで、そしていつまで上昇を続けるのかという問いへの答えは、結局のところAI投資そのものの持続性にかかっていると言えそうだ。

KIOXIA : https://www.kioxia.com/ja-jp/top.html
Micron : https://www.micron.com/

株価参考
日本取引所グループ : https://www.jpx.co.jp/
Yahooファイナンス : https://finance.yahoo.co.jp/
日本経済新聞スマートチャートプラス : https://www.nikkei.com/smartchart/

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