大手メモリ3社が集団訴訟に、DRAMの価格操作疑惑で
2026年6月25日、世界のDRAM市場を寡占するサムスン電子、SKハイニックス、マイクロン・テクノロジーの3社を被告とする連邦集団訴訟が、カリフォルニア州北部地区連邦地裁に提起された。訴訟を主導したのは法律事務所Bathaee Dunne LLPとHagens Berman Sobol Shapiroで、同日同じカリフォルニア州内でアップルが全MacおよびiPadの価格を一斉に引き上げるという事態と重なったことで、訴訟は提起直後から広く注目を集めることになった。原告は14名の個人消費者と、PCリテーラーなど3社の中小企業で構成されており、「DRAMの独占的供給者たちが供給を人為的に絞り込み、価格を不当につり上げた」と主張する。
訴状が描く価格操作の構図
訴状の核心にあるのは、3社がHBM(High Bandwidth Memory)へのシフトという経営判断をカルテルの手段として利用したという主張だ。
AIインフラの急拡大に伴い、サーバーやAIアクセラレーター向けの高帯域幅メモリであるHBMへの需要は2022年以降に激増した。3社はこの流れを受け、AIデータセンター向けの高付加価値製品に生産能力を集中させると相次いで表明した。コンシューマーや一般法人向けに広く使われてきたDDR3およびDDR4規格の汎用DRAMの生産は、それと入れ替わる形で削減されていった。
原告が独占禁止法上の問題として捉えるのは、この転換が3社の間で著しく同期していた点だ。訴状は「DRAMオリゴポリスト(寡占業者)たちは従来型DRAMの供給を同時並行的かつ公然と絞り込みながら、HBMという利益率の低いダイへと一斉に舵を切った。それにもかかわらず価格は驚異的なスピードで高騰し続けた」と述べ、「経済的合理性に反する行動」だと断じている。さらに、各社が自社の生産戦略を公式発表の場で相次いで言明することで、競合他社に対し価格維持の意図をシグナルとして発信していたとも主張している。
市場インパクトとしては、TrendForceのデータが訴状の主張を裏付ける形で重くのしかかる。DRAMのコントラクト価格は2026年第1四半期に前四半期比で90〜95%上昇し、四半期ベースでは史上最大の急騰を記録した。第2四半期もさらに58〜63%の上昇予測が示されており、2022年を起点とした累積の価格上昇率は約700%に達するとされる。訴状はこの数字を「価格操作が現実に行われた証拠」として引用している。
MicronのCrucial撤退を「証拠の一つ」に
訴状がとりわけ問題視する具体的な行動として、マイクロンによるコンシューマー向けブランド「Crucial」の廃止がある。
マイクロンは2025年12月、Crucialブランドを通じた消費者向けDRAMおよびSSD製品の販売を段階的に終了すると発表し、2026年2月をもって出荷を完全に停止した。Crucialは30年近くにわたって自作PCや既製品パソコンのアップグレード市場を支えてきた老舗ブランドであり、DIY市場における主要なTier-1サプライヤーの一角を担ってきた。
マイクロンはこの決定をHBMやエンタープライズ向けDRAMへの事業転換という戦略的判断として説明した。同社幹部によれば、製造能力、研究開発資源、設備投資をいずれも高付加価値製品に集中させる必要があり、コンシューマー向けブランドを維持し続けるための機会費用が許容できない水準に達したという。マイクロンは現在、NVIDIAやAMDとHBM3Eの長期供給契約を締結し、さらにHBM4へのロードマップも進行させている。
しかし訴状は、この判断のタイミングが問題だと指摘する。Crucialの撤退はコンシューマー向けDRAMの価格が史上最高水準に達しているただ中に行われた。利益率が最大化している局面でコンシューマー向け供給路を閉鎖することは、通常の経済的合理性とは矛盾すると原告は主張する。業界アナリストの一人は「Micronは撤退後の消費者向けDIMMをすべてエンタープライズ向けに振り向けることができる。それほど供給はひっ迫している」と述べており、市場の構造的な供給不足は揺るぎない現実として存在する。問題はそれが「意図的な操作」だったか否かの立証だ。
Appleの一斉値上げが直接の導火線に
訴訟が提起されたまさに同日、アップルは歴史的と評される価格改定に踏み切った。同社はMac、iPad、Apple TV、HomePod、HomePod mini、Vision Proの各ラインで価格を引き上げ、製品のスペックを据え置いたまま価格だけを上げるという同社としては異例の対応をとった。iPhoneは今回の対象外となったが、アップルは追加の価格改定もありうると示唆した。
主要製品の変更幅を見ると、今年初めに599ドルでデビューしたMacBook Neoは699ドルへと100ドル上昇した。これはデル・テクノロジーズが対抗商品として投入したXPS 13と並ぶ価格帯であり、MacBook Neoが持っていた100ドルの価格優位を一気に失うことになった。13インチMacBook Airは1,099ドルから1,299ドルへ、MacBook Pro(1TBモデル)は1,699ドルから1,999ドルへそれぞれ引き上げられた。iPadでは128GBのiPad Airが599ドルから749ドルへ、256GBのiPad Proが999ドルから1,199ドルへと値上がりした。アップル株はこの日6.15%安の275.15ドルで取引を終え、過去4カ月超で最大の下落幅となった。
アップルは声明の中で「AIデータセンターの急速な拡張がメモリとストレージへの需要を空前の水準に押し上げている。コンポーネントの価格がこれほどの速さで、これほどの水準まで上昇したことはかつてなかった」と述べ、これまで価格上昇分を内部吸収してきたが「その限界に達した」と説明した。アップルのCEOはメモリ不足の状況を「100年に一度の洪水」と例えたとされる。
訴状はアップルによる一斉値上げを、被告3社の価格操作によって消費者および小企業が受けた具体的な損害の例証として引用しており、提訴を後押しした直接の契機として位置づけている。
過去の有罪判決を法廷戦術に
今回の訴状が法的根拠を補強する上で重視しているのが、2000年代に確定した刑事有罪の前例だ。
米司法省は2002年にシャーマン独占禁止法に基づき、1998年から2002年にかけてのDRAMカルテルへの調査を開始した。この捜査の結果、サムスン電子、SKハイニックス(当時・ハイニックス半導体)、マイクロン・テクノロジー、インフィニオン・テクノロジーズ、エルピーダメモリの5社が有罪答弁を行い、複数の役員が実刑判決を受けた。サムスンは2005年に約3億ドルの刑事罰金を支払い、SKハイニックスは同年に1億8500万ドルの罰金を科された。インフィニオンは2004年に1億6000万ドルの罰金を科されており、当時としては米独占禁止法史上3番目の規模に並ぶものだった。
これらの罰金や和解金を合算したカルテル全体の制裁額は7億3100万ドル超にのぼるとされる。サムスンとSKハイニックスはいずれも過去に刑事事件で有罪答弁した実績があり、今回の訴状はこの事実を「同一企業が同一の行為を繰り返してきたパターン」として提示し、今回の疑惑の信ぴょう性を高めようとしている。
さらに今回の訴状が特筆すべき主張として含んでいるのが、「被告3社は2000年代に実刑に服した役員を後に再雇用し、要職に登用した」という点だ。MLexが報じたように、訴状は各社が「過去の刑事カルテル行為で投獄された役員を厚かましくも再雇用し、報いた」と述べており、過去の反省ではなく組織的な継続性があったことを示唆している。この主張は以前の訴訟には存在しなかったものだ。
2018年の先行訴訟との比較
実はHagens Bermanは2018年4月にも、2016年から2017年にかけてのDRAM価格急騰を巡り同じ3社を相手取った集団訴訟を提起している。しかしこの訴訟はカリフォルニア州北部地区連邦地裁によって棄却され、控訴審でも支持されなかった。
当時の控訴審裁判官は「価格が上昇している局面でサムスンが供給を削減したことは、経済的合理性をもって説明しうる」と述べ、各社の公式発表にも「共謀がなかったとしても、寡占市場における相互依存的な行動として同様の声明が出されたはずだ」との見解を示した。今回の訴状は、この壁を乗り越えるべく、役員再雇用という新たな事実や、スケールが桁違いに異なる今日のAI需要という背景を盛り込んでいる。法的基盤の構築は2018年より強固と評す向きもあるが、立証の困難さは依然として高い。
急騰する価格と業界全体への波及
DRAMの供給逼迫はアップル以外にも広く波及している。マイクロソフトはXboxの価格を2025年以降3度にわたって引き上げており、ソニーもPlayStation 5の価格を複数回改定した。PC市場ではレノボ、デル、HP、ASUSが軒並み製品価格を引き上げ、ゲーム機ではValveが新製品Steam Machineの2TBモデルを当初の計画より高い1,919ドルで発売する際にRAM不足をその理由の一つとして挙げた。業界調査会社IDCは2026年のスマートフォン市場が過去最大規模となる約14%減、PCは11.3%減と予測しており、メモリ高騰による消費者への価格転嫁が需要を直撃している。
Lenovo(聯想集団)はドイツ・ハンブルクで2026年6月に開催されたスーパーコンピューティング・カンファレンス「ISC 2026」に登壇し、執行役員マーティン・ヒーグル氏が「DRAMとNANDの価格は2025年初頭の水準には絶対に戻らない」と会場に向かって述べた。登壇者自身が笑みを添えながら語った「never(絶対に)」という言葉は、字義どおりではなく「少なくとも今後5年以上」を指すとされるが、レノボが公式に示した見解は明確だ。2028年以降に新たな製造キャパシティが加わったとしても、2030年以降は現在の高価格水準が「新常態(new normal)」として定着するという予測が会場のプレゼンテーションで示された。
SKハイニックスのチェ・テウォン会長もかねてより2030年頃までの供給逼迫を示唆しており、Micron CEOサンジャイ・メフロトラ氏も「2027年を超えても市場はタイトな状態が続く。2028年に徐々に改善が始まるとしても、需要に追いつける時期は現時点では見通せない」と述べている。
投資銀行ジェフリーズは、2026年第3四半期にメモリ価格が前四半期比40〜50%、第4四半期にはさらに30〜40%の上昇を予測している。同行の見立てでは2027年通年でも前年比40〜45%程度の上昇が続く可能性があり、価格上昇の本格的な鈍化は2028年まで見込みにくいとされる。マイクロンが2026年度第3四半期に売上高で前年同期比約3.5倍の記録的な業績を収めるなど、被告3社はメモリ高騰の最大の受益者でもある。
訴訟の展望
ノエル・ワイズ判事が担当するこの訴訟は、シャーマン独占禁止法、カートライト法(カリフォルニア州反トラスト法)など複数の連邦・州法を根拠としており、対象期間中に割高なDRAMないしDRAM搭載機器を購入したすべての消費者・企業への損害賠償を求めている。
ジェフリーズなど複数のアナリストは、訴訟が進展したとしても少なくとも今年末までは市況への直接的な影響は生じにくいと見ている。2000年代の先例では、有罪答弁から罰金支払いおよび民事和解へと発展した経緯があり、4億6,000万ドル規模の民事和解(2010年)が成立した例もある。今回の訴訟が和解に至った場合、被害を受けた消費者の規模を勘案すれば相当額の賠償が生じる可能性もあるが、立証の壁は依然として高い。2018年の訴訟では「寡占市場における相互依存的行動」という論理でメーカー側が凌いでおり、今回も同様の防衛論が持ち出されることが予想される。
被告3社は本稿執筆時点で訴訟に対する公式なコメントを示していない。AIインフラへの需要が構造的に拡大し続けるなか、世界のDRAMを三社で9割以上掌握する寡占構造の是非が問われる今回の訴訟は、短期の市況だけでなく、半導体産業の競争政策において長期的な影響を持つ可能性がある。
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